作者の石牟礼道子さんは、2018年2月10日に亡くなりました。「苦海浄土」は、1969年に刊行。水俣病に苦しんだ人の声をひろい、<大きな試練にさらされたとき、人はどのように再生していくのか>がテーマの書籍です。翌70年の第一回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれましたが、石牟礼さんは辞退したというエピソードが残っています。
・「う、うち、は、く、口が、良う、も、もとら、ん。案じ、加え、て聴いて、はいよ。う、海の上、は、ほ、ほん、に、よかった」
自分は、もう流暢(りゅうちょう)に話すことができないから、申し訳ないがよく耳を傾けて聞いてほしい。海の上で過ごした日々は、本当に幸せだった。
水俣病は、神経の自由を著しく損ない、言葉を奪う病気です。経済的に貧しい漁民は、自分で獲った魚をたくさん食べて生活していました。当然ながら水俣病の病状も深刻になる。魚が原因であると疑われてもなお、生きていくために食べ続けなければならない。ここに水俣病の悲劇があります。