中学入試でも根強い出典の外山滋比古氏。思考力型入試という言葉もありますが、あらためて「考える力 新しい自分を作る(海竜社/著・外山滋比古)」とは?
□たとえ間違っていても自分の頭で誠実に考えたことは独創である。人間は独創によってのみ進化する。
□楽あれば苦あり、ではなく、苦あれば楽あり。人間は苦から逃げられない。苦は、むしろありがたい先生である。
□赤ん坊が歩きはじめる時に何度も転ぶ。どんなに運動神経が発達している子でも、一度も転ばずに歩けるようにはならない。一度や二度ではなく、何度も転ぶ。赤ん坊は転んで怪我などないようにまるまる太っているのだという。
□「いわゆる頭のいい人は、いわば脚の早い旅人のようなものである」頭の悪い人が頭のいい人に勝つことがある。脚の速い人は、富士山の裾野まで来て、そこから頂上を眺めただけで、富士山の全体がわかったようなつもりになって帰ってくる。富士山はやはり登ってみなくては十分にわからない。
□俗説だが、富士山に降った雪がとけて流れて斜面に降りて、伏流水となって関東平野へとどいて噴出するようになる。それまで三百年を要するという。
□「オックスフォード英語辞典」は途中から国家事業となり国の支援を受けたが、なかなか進まない。議会で「もっと精を出して仕事をしたらどうか。伝え聞くところによると、編集の職員は午後、テニスをしているという。終日、仕事をしてほしい」という注文が出ると、当事者代表が「一日ぶっつづけに仕事をしたのでは誤りのない正確な辞書はできません」と抗弁、それが認められたといわれる。
□奥入瀬渓流といえば、いまは名だたる景勝の地であるけれども、有名になったのはそんなに古いことではない。明治になってからのことである。東京から訪れた文人 大町桂月が発見したと言われる。昔から土地に住んでいる人たちはそれが美しいことを知らなかった。
上高地は夏の暑さを避けるに適したこととされているが、それを見つけたのは日本人ではなかった。イギリス人ウエストンが日本アルプスをつくり上げた。これはただの山並みだったのに、ウエストンが見つけ、命名したもので、上高地はその徳をしのんで、いまはウエストン祭を行う。あまり近くでわからぬことがある。親子、友人、師弟、いずれもある程度の隔たりがあればこそ、正しい関係が持続するのである。
□親子のトラブルが深刻になっているのは、車間距離をとることを忘れたドライバーに似ている。