運転中のお父さんに「道間違ってない?」「ブレーキ遅いじゃないの。危なくない?」と言い続けているとドライブがまったく楽しくなるのはもちろん、自尊心をひどく傷付けて関係性が悪くなるのは間違いありません。子供が集中している時に、口出しをしすぎるな、です。
世界の小津
小津安二郎監督の作品は、DVDボックスも持っています。昔の北鎌倉の様子に趣きがあります。
小津安二郎監督の「お早よう」という映画のラストシーンで佐田啓二さんと久我美子さんは駅のホームでこんな会話をします。
「こんにちは」
「こんにちは」
「今日どちらまで?」
「ちょいと銀座まで」
「いい天気ですね」
「いい天気ですね」
「あ、あの雲なんですか?何かに似てますね」
「何かに似てますね」
「いい天気ですね」
「いい天気ですね」
2人はこんなふうに終わりなく同じ言葉をただ繰り返すだけです。でも、この会話が2人にとっては至福のコミュニケーションであることが確信されます。
2人の間を行き来しているのは、「私はあなたの言葉を聞き取った。私たちの間にはコンタクトが成り立っている」というメッセージです。というのも、相手とのコミュニケーションが成り立っていることを相手に知らせる一番確実な方法は、聞きとった言葉をもう一度繰り返すことだからです。
ほんとうに親しい人たちの間では、ときには「何もしない」ということが貴重な贈り物になることもあるのです。
特に家族の間では。