生理学者・心理学者のイワン・パブロフは、犬によだれを垂らさせる訓練を行った。彼は、犬に餌を与える前にベルを鳴らした。すると犬たちは、「ベルの音」と「もうすぐ餌がもらえること」を結びつけるようになり、ベルを聞いただけで唾液の分泌反応を起こすようになった。ここまでは、有名な話。それから数年後に、この犬たちの身に何が起こったかは、あまり知られていない。
1924年、パブロフの研究所と犬舎があった場所を大洪水が襲った。洪水は、犬のケージのすぐ近くまで押し寄せ、何匹かは助からなかった。生き延びた犬たちは、安全な場所まで400メートル近くも泳ぐことを余儀なくされた。のちにパブロフは、犬たちがそれまでに経験した中で最もトラウマになる出来事だったと回想している。洪水が引いた11日後、パブロフは次のように報告書を書いている。「身についていた条件反射は、ほぼ完全に消失した。ベルを鳴らしても、犬は餌を食べず、非常に落ち着きなくドアを見つめるばかりだった」
もちろん犬と人間を同じに語ることはできないが、「トラウマ」の影響力は恐ろしい。少なくとも、未成年の段階での「自己肯定感を周りの大人が下げるような言動」「人格を否定するような言動」は絶対に避けねばならない。
